整形外科・リハビリテーション科・麻酔科
副院長 片井 学
股関節は脚の付け根にある関節で、歩く・体を支えるなどの重要な役割を担って います。骨盤の一部である寛骨臼(臼蓋)という『受け皿』に、大腿骨頭という 『ボール』がはまった形状をしています。臼蓋・骨頭ともに骨の表面は軟骨で 覆われ、正常であれば関節の動きはなめらかで痛みを生じません。
股関節の軟骨が擦り減ってくると、痛みや関節運動障害が出てきます。これを『変形性股関節症』といいます。老化をはじめ、動作・運動による負担や体重の影響などの他に、生まれつき股関節が脱臼していた(先天性股関節脱臼)、または股関節の『受け皿』が生まれつき浅い(臼蓋形成不全)等が原因となります。『変形性股関節症』が進行すると軟骨がなくなり、むき出しとなった骨どうしが直接こすれ合って強い関節痛を生じます。関節の可動範囲も狭くなり、歩行もぎこちなく困難となります。
初期症状は、股関節が歩きはじめに痛い・長く歩くと痛くなってくるなどですが、 進行すると安静時や就寝時にも痛みを生じます。 治療の基本は股関節の安静や鎮痛剤の使用など(保存治療)ですが、進行した関節症で治療効果が乏しい場合は手術治療を検討します。 多くの場合レントゲン検査によって診断が可能ですが、MRI・CTなどの検査・評価が必要となる場合があります。
血流障害により骨頭の一部の骨が壊死し、骨頭がつぶれて変形を生じます。 多量の飲酒やステロイド剤の使用、また骨折などの外傷に関連して起こるといわれていますが、はっきりした原因なく生じることもあります。
リウマチによる関節破壊の結果、関節変形を生じるものです。
全人工股関節置換術とは、股関節の受け皿部分である臼蓋表面を削り、カップとよばれる人工の受け皿を設置します。また球状の大腿骨頭部分は切除し、ステムとよばれるものを大腿骨本体にはめ込んで新たな骨頭を取り付けます。人工股関節は特殊な金属やポリエチレン、セラミックでできています。 人工股関節置換術は進行した関節症に対して有効な手術法です。特に痛みの改善に優れており、日常生活動作や歩行が楽になります。
当院では進行した変形性股関節症で保存治療での改善に乏しい症例に対し、主に全人工股関節置換術を行っています。 人工股関節には、接着剤のようなはたらきをする『骨セメント』を用いて骨に固定 するタイプと直に骨に固定するタイプ(セメントレス)があり、当院ではセメント レスタイプを使用しています。 また人工股関節のデザインにも様々な種類があり、当院で使用している人工股関節の『ステム』部分は『骨温存型』と呼ばれるタイプです。これは骨粗鬆症で弱くなった骨でも良好な固定力を得やすく、ゆるみが生じにくいという特長があります。
注:第106回・第109回・第124回北海道整形災害外科学会に於いて術後成績に ついての発表を行っています。またその結果をまとめた医学論文が医学雑誌 『臨床整形外科』第44巻・第7号に掲載されました。
経過に問題なく体調が良好であれば、筋力低下や合併症予防のためできるだけ早期に離床しリハビリを開始します。リハビリはスケジュールにそって進められ、通常術後4週程度で歩いて退院されます(個人差はあります)。
その他に下記のような合併症があります。
4.人工関節のゆるみ
5.人工関節周囲骨折
現在治療中の病気がある場合、その病状の安定が重要です。かかりつけ病院との連携も必要となります。糖尿病や抗がん剤治療などで免疫力が低下している場合、インフルエンザや風邪、歯周病、化膿している傷があるなどの場合は化膿がおこるリスクが高くなります。いずれもあらかじめ治療を受けておく必要があります。また肥満のある方はできるだけ減量することがより良い術後成績につながります。